新卒採用であっても、転職であっても、新会社への出社一日目は誰もが緊張することでしょう。ドイツに拠点を持つとはいえ、日系企業的な文化を持つ在独日系企業であれば、同僚への挨拶や初日の流れは基本的に日本でのそれをイメージしておけば、そこまで外れることがありません。一方で、労働契約書や就労ビザに関する手続きはドイツならではのものであるため、入社前の時期に片付けておく必要があります。
ドイツ就職虎の巻最終章となる本巻では、在独日系企業への入社全般を解説します。
この記事を読んでわかること
- 入社前の書類手続き一覧
- 初出勤日の流れ
- 試用期間とは?試用期間中の注意点
入社前の流れ
日本における転職活動と違い、就労ビザ関係の話など、ドイツの法慣習に従った手続きなどが用意されています。現職の退職から入社までのプロセスを滞りなく済ますために、以下の点に気を付けて手続きをおこないましょう。
労働契約書の確認・署名
採用担当者から電話やメールなどで「内定」の報告が来たとしても、まだドイツにおける労働契約が正式に締結されたわけではありませんので気は抜けません。実際には、労働契約書のような書面における雇用主、および雇用者の署名をもって正式に「労働契約が成立した」と見なされます。
労働契約書(Arbeitsvertrag)の中には、報酬、ボーナス(クリスマスや休暇ボーナスを含む)、試用期間の長さ、有給休暇日数、契約の開始日、労働契約の期間、など自身の労働環境に関して重要と見なされる内容が盛り込まれています。一般的にはドイツ語で提示されるこの労働契約書を、隅から隅まで読んで確認した上で署名するようにしましょう。疑義や不明点のある点は棚上げせずに、問題点がクリアになるまで採用担当者と話し合う姿勢も時には必要となります。
就労ビザの書き換え(※必要な人のみ)
現行の就労ビザが特定の雇用主の名前に紐づいている場合、転職に際して外人局に届け出をおこない、就労ビザの書き換えをおこなう必要があります。この際に、新しい雇用主と締結した労働契約書の提出が求められますので、タイミングとしては労働契約書を取得してから外人局に赴くこととなります。
書き換えのタイミングや労働の有無の判断は、個々の条件によって外人局の判断に委ねられることととなりますので、申請が必要な場合は必ず管轄の外人局に問い合わせの上、確認するようにしましょう。また、例外を除き、就労ビザ書き換えのタイミングで引っ越しによって管轄の外人局が変わってしまうと手続きが長期化するので、引っ越しやAnmeldung(住民登録)などの手続きは事前に済ませましょう。
初出勤の準備
さて、書類や引っ越し(※転職に伴って必要な場合)の手続きが済んだらいよいよ緊張の初出勤を控えるだけとなります。特定の書類など持ち物の指定が無ければ、基本的には筆記用具、メモ帳や書類などを保管するクリアファイルを準備しておけば事足りるでしょう。また、初日に遅刻は厳禁のため、面接などで一度行ったことがあっても改めて行き方を確認しておきましょう。
初出勤当日、各部署の同僚に挨拶をする時間が設けられることがあります。日本語、英語、ドイツ語(社内で使用されている言語による)での簡単な自己紹介がおこなえるように練習しておくのもおススメです。
入社初日の流れ
入社一日目、すなわち初対面の印象が重要であることは日本でもドイツでも変わりません。同僚、上司、社内の人々と友好的な関係を構築していくうえで、入社初日にどのような注意をおこなうべきなのでしょうか?
服装・身だしなみ
服装が人となりを表すとは、万国共通の考え方として受け入れられていることでしょう。身だしなみがだらしない人間は、取引先からも同僚からも信頼のおけない人間とみなされてしまうことがあります。TPOに適した服装を準備することはもちろん、以下のような点にも改めて注意して初出勤を迎えましょう。
- 寝ぐせはないか
- 靴に汚れはないか
- セーターなどにホコリはついていないか
- シャツに皺が無いか
- 名刺入れは持っているか
- 香水はキツすぎないか
同僚への挨拶
上司や担当の総務部とともに、同僚やコミュニケーションの必要となる部署への挨拶が行われることでしょう。「初出勤の流れ」の箇所で触れた通り、ここで簡単な自己紹介を行わせることが多いため、あらかじめ準備しておくと良いですね。
同僚や上司と話す中で、日本語や英語では問題ありませんが、ドイツ語特有の問題で「Sie」を使うか「Du」を使うかというテーマが生じます。Sie、Du、ともに英語のYouにあたる第二人称単数ですが、ドイツ語の場合「オフィシャルな場や関係ではSie」「カジュアルな場や関係ではDu」を用いるというルールがあります。
職場によってはあえて同僚同士フレンドリーに話すため、SieではなくDuを用いましょう、というところもありますが、初出勤時で、かつお互いに合意していない場合、Sieを使っておくことが無難です。打ち解けてきて、Du呼びでもいいよね、という明確な合意が両者の元でなされたら、Duを用いるようにしましょう。
社内ルールの確認
病欠の場合、有給の報告、社有車の使用や駐車場、タイムカード、セキュリティ関連など社内規則に関する諸ルールは、初日の段階で人事部や総務部などと面談をおこない、明確にしておくこととなります。
会社によっては独自のルールを設けているため、「前の職場ではこうであった」といって自分の判断に従うのではなく、新卒採用のような新鮮で素直な気持ちで新しい会社のルールを確認しなくてはいけません。
備品の設定
出勤初日、あるいはそれ以降にできるだけ迅速に、パソコン、携帯、仕事場のカギ、など仕事生活に不可欠な備品関連の初期設定を総務部やIT部などと連携しておこなうことになります。パソコンや携帯などはセキュリティなどの問題も絡んでくるため、パスワード、Wi-Fiの使用ルール、などもクリアにしておきましょう。
試用期間中(採用から半年程度)の流れ
ドイツ社会では、雇用主と雇用者との間で「Probezeit」と呼ばれる就業試用期間を設けることが一般的で、ドイツの日系企業においても同様の文化が適用されます。双方の合意があれば「試用期間無し」での労働契約も可能となりますが、ドイツ民法では最長半年の試用期間が認められていることから、一般的には3~6ヶ月程度の試用期間が労働契約書に盛り込まれることとなります。
さて、この試用期間ですが、雇用主は雇用者に対して、長期雇用契約の時期と比較すると厳格な理由など無しに解雇・または契約非更新をおこないやすい、というメリットを持ちます。
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試用期間 |
長期雇用契約(有期限・無期限) |
時期 |
入社から半年以内 |
入社から半年以降 |
解雇通知猶予期間 (※臨時解雇を除く) |
2週間 |
勤続年数に応じる (特段の記載が無い場合) |
解雇に至る理由 |
パフォーマンス不足等 様々な理由での解雇が可能 |
素行的理由等 一部の解雇理由に限定 |
解雇割合 |
比較的高い |
比較的低い |
この試用期間中は、パフォーマンス不足以外にも、同僚とのトラブル、遅刻、など様々な要因が解雇要因として挙げやすく、長期雇用契約が締結された後と比べ、雇用が不安定な時期という必要があるでしょう。長期勤続している従業員の中には割とのびのびと仕事している同僚の姿も見えるかも知れませんが、彼らとは違い試用期間中の従業員は小さなトラブルでも解雇の原因になりかねないため、慎んだ行動をしましょう。