ドイツにおける転職活動を考えるとき、実は面接を含む就職活動だけではなく、現職との兼ね合い、つまり「いかにして退職するか」も重要なポイントとなることを忘れてはいけません。特にドイツの日本人は就労ビザによって滞在許可を得ているため、入社や退職のスケジュール次第ではこの就労ビザの移行が複雑になってしまうのです。
ドイツ虎の巻4巻では、現職を退職する際の注意点や時系列についてまとめていきます。
この記事を読んでわかること
- ドイツにおける退職のルール
- 日本人の退職に関する就労ビザの注意点
- 退職時の手続き、具体的手順
- 退職時の必要書類
退職に関する注意事項
必ずしも、というわけではありませんが、無職になるリスクを避けるほか、日本人であれば後述の通りビザの空白期間などを防ぐため、一般的には現職への退職通知は、新しい雇用者が見つかってからおこなうことが推奨されます。
以下、退職に関わる3つの注意点「就労ビザ」「退職通知猶予期間(Kündigungsfrist)」「退職願」について詳細解説をおこなっていきます。
就労ビザの紐づけが変わる
日本での転職活動と違って、ドイツにおける転職活動の場合、我々日本人には「就労ビザ」の縛りが存在します。企業の紐づきがなく自由な就職活動がおこなえるようになるには、以下のように一定の就労条件を満たすことが必要となります。
日本人のドイツ就労ビザ |
有期就労ビザ(企業名に紐づく) |
有期就労ビザ(企業名に紐づかない) |
無期限就労ビザ |
ビザの期間 |
労働契約書の期間 ※パスポートの期限を上限 |
労働契約書の期間 ※パスポートの期限を上限 |
無期限 ※パスポートの期限を上限 |
一般発行条件 |
ドイツにおいて雇用主がいること |
ドイツで24ヶ月就労(個人年金を払う)こと |
ドイツで60ヶ月就労(個人年金を払う)すること(※ドイツにおける学位保持者など、緩和規定アリ) |
企業への紐づき |
特定の企業名に紐づく |
特定の企業名に紐づかない |
特定の企業名に紐づかない |
転職の際の立ち位置 |
新たに申請し直す必要がある |
新たに申請し直す必要が無いが、通知が必要 |
新たに申請し直す必要が無いが、通知が必要 |
申請のための書類 |
新しい労働契約書 |
不要 |
不要 |
(※本テーブルの情報はあくまで一般見解です。細かい規定や例外条件などはドイツ移民局HPや最寄りの外人局の指示に従ってください)
企業名に紐づかない就労ビザを保持していたり、すでに永住権を保持している応募者であればビザに関して大きな縛りもなく転職活動が可能ですが、現行の企業と紐づいた期限付き就労ビザでもってドイツに滞在している場合、雇用者が変わると、改めて外人局に申請し直す必要があり、その際に「新しい労働契約書」の提出を義務付けられます。
つまり、新たな雇用主が現れる前に現職を辞めてしまい、新たな労働契約書を提出できず、ドイツへの長期滞在権を失う恐れが出てくるのです。そのため、原則的にドイツにおける転職活動の時系列は「内定」→「現行の会社の退職」→「新会社への入社」という流れにする必要があります。
Kündigungsfristの確認
上述の時系列を表におこすと以下のようになりますが、ここで一つ注意しなくてはいけない概念として「退職通知猶予期間(Kündigungsfrist)」が登場します。退職通知猶予期間とは、ドイツの労働法で規定された内容の一つで、退職を申し出てから退職日まで、過去の就労年数に応じて一定の猶予を設けなくてはいけない、というルールです。
過去の就労年数により、最長では7ヶ月の退職前告知猶予期間が発生することになりますが、5年以下の就労であれば1~2ヶ月の告知猶予期間が設けられているに過ぎないため、内定後に現行の企業に退職を通知すれば、1~2ヶ月以内に退職、新会社への入社がスムーズに行えます。
ドイツ労働法(§ 622 Kündigungsfristen bei Arbeitsverhältnissen)を元に著者作成
退職願のルール
ドイツ社会にあって、原則は書面による告知をもってはじめて「正式に甲の申し出が乙に伝わった」と見なされるわけです。ドイツ民法623条の規定により、退職を申し出る側は以下のルールに則った「退職願」を書面で提出する必要があり、この日時からはじめて「退職通知猶予期間」がカウントし始められるわけです。
- 退職願(Kündigungsschreiben)には明確に退職を申し出る旨を記載する(婉曲な表現はNG)
- 自筆の署名を退職願に記す必要がある
- 労働契約を終了する明確な日時の指定をおこなう
- 労働契約を終了する雇用者情報(名前、住所)および雇用主情報(会社名、住所)を明確に記載する
ただし、契約書文化のドイツと言えども、いきなりこうした書面を人事部または拠点の責任者に送り付けては「円満退職」とは程遠い退職になってしまうかも知れません。こうした法規定がある一方で、円満退社を求めるのであれば、まずは直属の上司に一言「退職したい旨」を報告し、ミーティングを設けてもらうようにしましょう。場合によっては職場環境の改善などを通じ、退職を踏みとどまらせるような交渉に出るかも知れません。
退職のための諸手続き
退職に関する諸注意点を見たところで、続いて具体的な退職のための手続きの説明に移っていきましょう。
※後述する内容はあくまで一般論であるため、個々の置かれている状況においては異なるアプローチが優先される場合もある点に留意ください。
上司・人事担当者との口頭での話し合い
上述の通り、書面でもって退職願を該当部署に無予告に送付することはあまり丁寧とは言えません。企業形態や退職の状況にもよりますが、基本的には退職願を提出する前に一度、直属の上司に報告することをお勧めします。ドイツにおける日系社会は意外にも人との繋がりが大きく、前職の同僚や上司と次の職場のプロジェクトなどで顔を合わせる、といったことも考えられます。可能な限り前の職場とは円満な形で退職をおこなうように努めましょう。直属の上司や人事部と腹を割ったミーティングの場を設けてもらうことで、労働条件の改善などが見込めることもあります。
また、こうしたミーティングを通じ、お互いに「何月何日を最終的な退職日にしよう」という合意をおこなうことが可能になります。上述の通り法的には通知期間の概念が適用されますが、引っ越し、繁忙期、引き継ぎ、といった両者の条件を擦り合わせることで、お互いに無理のないタイミングを模索することで円満退職に近づくと言えるでしょう。
書面による解雇合意書の締結(Aufhebungsvertrag)
労働契約書によって労働が開始されるとすれば、労働契約の終わりを告げる書類は「解雇合意書(Aufhebungsvertrag)」と呼ばれます。上述の通り、ドイツ社会においては書面での合意が最優先されるため、退職金や情報の保護など、細かいトラブルを避けるため、雇用者と雇用主との間で退職に関する合意をおこなうための「解雇合意書」を締結することとなります。この解雇合意書の中に、具体的な退職日時などを盛り込むことで、転職先の雇用主とのコミュニケーションやスケジューリングがより明確になるでしょう。
有給の消化
退職までの間に前の会社での有給を使い切ることができます。一般的には、この残存有給日数を消化する仮定で、次の会社の街への引っ越しであったり、その他諸手続きを進めていくような形になります。後述のために、ここで有給を使い切ったということの証明は「Urlaubsbescheinigung(休暇証明書)」という形で会社側から発行されることとなります。
必要書類の受領
退職のタイミングで、雇用主から以下のような書類を取得することができます。もっとも、渡し方(手渡しor郵送)やタイミング(出勤最終日or退職後)などに関しては企業ごとにルールが異なったり、上述の解雇合意書の中で定めていたりと条件が異なります。
- Lohnsteuerbescheinigung(課税証明書)
- Arbeitszeugnis(労働証明書)
- Urlaubsbescheinigung(休暇証明書)
- Arbeitsbescheinigung(雇用証明書)
新しい雇用主と話し合い、初出勤に先立って提出が必要となる書類などがあれば、早めに人事担当者にコンタクトし早めに取得しておきましょう。