ドイツ労働法: 従業員の解雇が頭を過った時に見ておきたいケーススタデイ

はじめに

従業員の解雇は企業経営において避けて通れない課題の一つです。しかし、解雇はリスクが高く、特に日系企業の中小規模の場合、解雇後に訴訟を起こされる確率が決して低くありません。Statistaの調査によれば、11 - 49人規模の日系企業では、解雇後に23.4%の従業員が訴えを起こしています。

今回のコラムでは、このような状況に備えるためのケーススタディーを用意し、ドイツでの法律の専門家、ジョーンズ弁護士の見解を交え、重要なポイントと共に解説していきます。

ケース1 「育休を申請した従業員の解雇」

A社(従業員数20人)のパフォーマンスが優れない男性営業員の処遇に悩んでおり、改善を要求する警告文を出すか、違う部署に移動させるか悩んでいる矢先に、半年間の育休が申請された。半年間の離脱は業績にも影響するため、代替要員を急ぎ手配することになった。会社としては、この従業員の同ポジションへの復職は考えられず、復職前に部署異動を命じようと計画している。この場合、育休から戻る従業員に会社都合で異動を命じても問題ないのか、また異動を拒否された場合 は解雇することは可能なのか。

ジョーンズ弁護士回答

従業員が元の仕事に戻れるという保証はない

一般的に、育児休暇から復帰後で、育児休暇前の仕事に復帰出来るという保証はありません。なぜならドイツ営業法(GewO)第106条に基づき、雇用主は業務内容、勤務地、勤務時間を変更する権限を持っているからです。

雇用契約や労働協定によって状況は変わる

ただし、この権限は雇用契約や労働協定によって制限されることがあります。これらの契約や協定には、通常、従業員のポジションや業務内容が明示されているため、その範囲内でのみ人員の移動が許されます。

新しい合意が必要な場合

契約に記載されていない形で業務を変更したい場合、雇用者は従業員と新しい合意を結ぶか、労働条件変更の一方的な通知を行う必要があります。尚、育児休暇中は従業員が解雇から特別に保護されているため、この通知は育児休業終了後でなければなりません。

社会的正当性と解雇通知期間

もし業務の変更を行う場合、その変更には「社会的正当性」が必要とされ、通常の解雇通知期間を守る必要があります。 

ケース2 「一度解雇した従業員の再解雇」

B社(従業員数15人)には、数回の改善要求を文書で行なった上で和解金を提示して解雇した従業員がいる。しかし、従業員側は不当解雇であると主張し和解には応じなかった。結果、裁判所で不当解雇が認められ、従業員は現職に復職することになった。その後も従業員の勤務態度は満足で きるものではなく、会社としては再度解雇に踏み切りたいが前回と同様の理由で解雇は可能か。

ジョーンズ弁護士回答

解雇の正当性が求められる

今回のケースでは会社には10人以上の従業員がいるので、解雇保護法が適用されます。解雇保護法が適用される場合、解雇には「社会的な正当性」が必要です。これは、解雇する理由が、業務上の必要性、従業員自身の状況、または従業員の行動に起因するものでなければならないということです。具体的には、支店の閉鎖、従業員の長期病気、無断欠勤などが該当します。

警告が必要な場合

解雇に進む前に、通常、従業員に対して警告が必要です。これは、従業員が自分の職務に対する責任を怠っていると明示的に示すものです。ただし、例外として、従業員に「重大な職務怠慢」が確認された場合、警告は不要とされています。

成果が不十分なだけでは解雇には不十分?

多くの会社が陥る誤解として、従業員の「不十分な成果」を解雇の理由にすることがありますが、これが必ずしも解雇の正当な理由になるわけではありません。従業員は、自分の能力に応じて最善を尽くす義務はありますが、特定の成果を上げる義務は基本的にありません。

何が解雇の正当な理由になるのか?

従業員が能力をフルに活かしていないと感じた場合、その証拠をしっかりと集めることが重要です。なぜなら、従業員が自身の能力を十分に発揮しないことを理由に解雇する場合、会社側がそのことを証明しなければならないからです。証拠の例として、会社の研修を拒否する、指示を無視するなどがあります。

二度目の解雇

最初の解雇が警告として機能する場合もありますが、状況によっては新たな警告が必要です。その警告で、従業員の不適切な行動と、それが続けば解雇するという点を明確にしなければなりません。

解雇には多くの複雑な要素が絡むため、企業も従業員もそのリスクを理解し、専門家のアドバイスの元、適切な準備と対応をする必要があります。

ケース3 「病欠が続く従業員の解雇」

C社(従業員数12人)には、病欠で出社をしていない従業員が在籍している。元々病欠しがちであったが既に数ヶ月出社しておらず、もう復職はない雰囲気である。顧問弁護士Aに相談したところ、従業員に配慮して復職を待つほかないという回答を得たが、会社としては解雇する手段があれば和解金を用意してでも解雇したい意向である。
なお、この従業員は診断書を毎月送付してくるだけで、
状況確認の話し合いにも応じてくれない。

ジョーンズ弁護士回答

3のケースは、10月12日(木)に開催のオンラインセミナー(渥美坂井フランクフルト共催)で解説します

セミナーでは事前にご相談いただいた解雇に関わる質問をご送付いただければ、匿名でケーススタデイとして解説をします。

セミナー概要

【日時】 10月12日(木) 16:00~16:30

【手段】 ZOOM

【プログラム】
16:00~16:15 ケーススタディ3 解説
16:15~16:30 質疑応答

【講師】 ドイツ弁護士アリソン・ジョーンズ( 渥美坂井フランクフルト)
ジョーンズ弁護士紹介ページ:https://www.aplawjapan.com/professionals/allison-jones

 【会費】 無料

【定員】 10社 

お申し込み方法】
①件名に「労働法セミナー / ご芳名 / 企業名」
②メール本文に弁護士にご相談したい点や、ケース1,2,3についての事前質問がございましたらご記載の上、service@career-management.deまでご連絡ください。

 (ご留意事項)

*5分前から受付を開始いたします。
*途中参加になっても問題ありません。
*事前質問が多い場合は、時間内に解説ができないこともありますが、個別での解説をご希望の場合は、別途講師から連絡が行くように手配も可能です。

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