書類面接を通過したら、いよいよ日系企業による採用面接がはじまります。コロナ禍以降、一次面接はオンラインにて実施する企業が一般的になりました。しかし、採用までに一度は直接会ってみたいと思う企業は非常に多く、最終面接は日系企業の位置するドイツの現地オフィスに赴き、対面で実施することがほとんどです。
(日本からの応募の場合、現地のドイツ側担当者とはオンラインで、対面で本社役員と面接するというケースもあります)
自身のスキルとポテンシャルを最大限面接官に納得してもらうためには、どのような戦略が必要なのでしょうか?ドイツ就職虎の巻3巻では、面接準備からよくある質問、身だしなみなどドイツの就職面接に関するイロハを徹底解説します。
この記事を読んでわかること
- ドイツ日系企業における面接の立ち位置
- 面接前準備
- 面接当日の流れ
- 面接で聞かれることとその意図
ドイツ日系企業の面接概要
日本での新卒採用面接を経験したことがある人は、ひたすらたくさん応募し、たくさんの面接に足を運ぶ、学生泣かせの就職スタイルに辟易しているかもしれません。幸運にも、ドイツの面接スタイルはもっと効率的で、特にドイツ日系企業は「採りたいと思った人間」しか面接に呼びません。
面接に呼ばれる人間の割合は企業やポジションにより異なりますが、一般的なドイツ企業であれば100人応募したとしたら、面接に呼ばれるのは5人程度、内定を得られるのは1人程度と言われています。当サイトのような日系企業に限定された就職ポータルであれば、すでに「日系」に特化したポータルであることから、面接に呼ばれる確率は単なるドイツ企業への応募よりも高くなる傾向にあります。
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応募できる企業数 |
一次面接に呼ばれる確率 |
一次面接の合格率 |
ドイツ企業へのポータル応募 |
制限なし |
5%前後 |
30~50%前後 |
日系企業へのポータル応募 |
制限なし |
15~30%前後 |
20%前後 |
日系企業への人材紹介会社経由での応募 |
厳選 |
30%前後 |
50%以上 30%前後 |
(当社調べ)
多くの人物を面接することは、企業にとっても面接官にとっても時間的かつ金銭的な負担になるわけです。面接に呼ばれるという事は、それだけですでに「数人の最終候補」のうちの1人に選ばれているわけで、一つ一つの面接が最終面接並の重要性を持つといって良いでしょう。
もっとも、書類選考を勝ち抜いて、面接に呼ばれる優秀な「数人」に選ばれたからと言って油断はできません。世界各地から集まった優秀な人材の中で、場合によっては自分より年齢が一回りも二回りも上のベテランを蹴落として、内定を獲得しなくてはいけないのです。
ドイツ日系企業の面接チェック項目
ドイツ日系企業といっても、企業の形態は千差万別です。数百から1000人規模以上の大企業もあれば、10人以下の小規模企業もあり、メーカー、金融、物流、商社など様々な業界形態が存在しています。そうした企業一つ一つに、少しずつ異なる面接ルールがあるわけで、あまり判を押したように画一的な「テンプレート」を頭に叩き込んでしまうのは得策ではないでしょう。
以下に挙げる内容は、ドイツ日系企業でおこなわれる面接一般の文化の紹介です。これに当てはまらない個々のケースも当然中にはあり得るため、臨機応変な対応が求められるでしょう。
面接前チェック
上述の通り、ドイツ日系企業の最終面接は企業が拠点を持つオフィスに赴いての面接が主流となります。自身の住んでいる町からドイツの公共交通機関を用いて、面接会場まで移動するといったケースも多々ありえるでしょう。
どんな場合であっても、面接当日にアレが無い、これがないとバタバタ慌ててしまうと、精神的に動揺し、受かる面接も受からなくなってしまいます。以下に挙げるチェック項目は、面接の前日には既に準備を終わらせたいところですね。
移動時間・移動方法の確認
世界一時間に正確な日本の交通網と異なり、ドイツの交通システムは中々あてになりません。雨天時、ストライキ時、スポーツ観戦時などあらゆるタイミングで電車やバスの遅延・欠便が予想され、場合によっては目的地到着が大幅に遅れることも少なくありません。ひどい月では、全体の6割の電車しか時間通りに到着しない、ということも・・(出典元:Deutschebahn公式)。そのため、最寄りの駅には十分な余裕をもって、面接の30分前~1時間前までには到着しておくことが推奨されます。
電車での移動の場合、予め予約できるチケットを買っておいても良いでしょう。当日の朝に慌てるより、何事も事前準備が大切です!
企業情報の下調べ
面接官は、応募者がすでに会社やポジションのことを理解しているという前提のもとに面接をおこないます。それを確かめるため、面接官から会社の規模、市場、メイン製品などについて聞かれることも少なくないため、企業情報をあらかじめ調査しておくことは必須項目でしょう。
調査の方法はいくつかありますが、基本的には企業のHPから収集出来る情報で十分です。ただ、日系企業の場合「本社」と「ドイツ法人」とで従業員数や業務内容が大きく異なりますので、双方の情報についてあらかじめ通じておく必要があります。企業規模、従業員数、設立、拠点数、などスタンダードな数字以外、細かい業務内容など、事前調査だけではわからなかった情報は面接中に逆質問という形で聞いても問題ありません。
持ち物・事前準備確認
面接に必要な持ち物に関して言えば、日本であってもドイツであってもそう大きな違いはないでしょう。会社によってはセキュリティチェックが厳格なため、下記のような持ち物に加え、滞在証明書やパスポートといった身分証明書を持参すると不要なトラブルを避けることができます。
- メモと筆記用具
- 名刺入れ
- 担当者の名前と連絡先(電車の遅れなど、緊急時に備えて)
- 履歴書のコピー
- 腕時計
- 身分証明書
面接当日の流れ
面接当日のスケジュールに関しては、会社の所定の様式などがあればそれに従う形で、なければ自己判断でフレキシブルに対応する必要があります。応募する会社が在独の日系企業である以上、日本文化を踏襲していることが多く、基本的に面接時のマナーや作法は日本のそれを踏襲する必要があることを肝に銘じましょう。
会場到着
上述の通り、交通機関の乱れなど当日にならないと読めない部分も多いことから、会場周辺への到着は早いに越したことはありません。近くにカフェなどがあれば、少し落ち着いてコーヒーブレイクなどを入れても良いでしょう。
ただし、会場(会社)への入場は時間厳守で、遅すぎるのはもってのほか、早すぎても面接官の不興を買います。アポイントの時間5分前くらいを目途に、受付へ赴くのがベストなタイミングです。
受付
会社の形態によっては、ビルのエントランスで名前を告げて会社の担当者を呼んでもらうパターン、受付で直接手続きするパターンなどがあります。「自身の名前」「担当者の名前」「〇〇時からアポイントがある旨」の3点を告げられれば、勝手を理解した受付の人に取り次いでもらえることでしょう。
面接室への案内
面接室への案内は、受付の人に案内されるパターンもあれば、受付に迎えに来た面接官と一緒に話しながら向かうパターンもあります。後者の場合、すでに面接官による「チェック」は始まっていることに注意しなくてはいけませんが、かといって緊張しすぎてしまうのも良くありません。最初は気兼ねなく「迷わなかった?」「遠くなかった?」といったたわいもないアイスブレークから始まるので、あまり深く考え込まず、冷静に受け答えしましょう。
面接担当がドイツ在住の日本人の場合、やはり日本風のビジネスマナーに即した動きが期待されます。名乗りのタイミング、ノックのカウントなど、新卒採用時に覚えた内容を改めて復習しておきましょう。面接担当がドイツ人の場合、こうした細かい点はあまり考慮されず、いきなり和やかにスモールトークや握手から会話がスタートすることもあります。どちらのパターンできても焦らないような心構えが必要でしょう。
日本人面接官、ドイツ人面接官で共通のルールが、「面接室の飲み物・食べ物には勝手に手をつけない」です。あまり遠慮をしない文化として知られるドイツであっても、面接中にガツガツと飲み食いをする応募者は好まれませんね。
面接
メモの準備は済ませていますか?会社説明など、面接中には度々メモを取る機会がありますので、そうした際には遠慮なくメモをとりましょう。ただし、「メモをとってもよろしいでしょうか?」と、事前に面接官の許可を得てからのほうが心証が良いですね。
これも日独共通のルールですが、「相手の目を見て話す」「はきはきと話す」という面接の基本原則は改めて押さえておきましょう。特にドイツ人相手では、日本以上に目を合わせての会話が重視され、目をそらしたりよそ見をしていると、「真剣ではない」「やましいことがある」と見なされます。
面接終了・帰宅
面接官がドイツ人の場合、ドイツ流の握手でお別れになることが一般的で、椅子の位置なども直す必要はないと止めてくることがあるかも知れません。面接官が日本人であれば、椅子の位置を直す、お辞儀をして退室する、とやはり日本文化を踏襲した立ち振る舞いが期待されるでしょう。
交通費などあらかじめ取り決めがある場合、こうした内容も面接後、あるいは面接終了直前に触れておきましょう。基本的にはここで、面接官からその後の流れについて説明があるはずです。
よく聞かれる質問と受け答え
日本で採用面接を経験したことがある人であれば、面接というものがどのようにおこなわれるのか、ある程度イメージがつくと思います。日本の新卒採用では、将来のポテンシャルを図る質問が多くなされ、したがって質問内容もどちらかというと間接的になりがちです。
一方で、中途採用や即戦力を前提とするドイツ日系企業での転職となると事情は異なり、過去の職歴や具体的な成果についての質問が多くなります。とはいえ、中には質問の内容と真意が異なるようなものも隠されているので、事前に下準備をしておかなくてはいけません。
どうやって面接まで来ましたか?
質問の意図
一人の応募者を面接に呼ぶためには、人事部や面接担当者の手間とコストがかかります。面接に呼ばれるということは、人事部も採用を前向きに検討しているという訳で、少しでも応募者のポテンシャルを面接の場でアピールしてほしいわけです。そのため、面接中応募者が緊張して自分の持ち味をいかせない、ということにならないよう、多くの人事は最初にアイスブレークの時間を設けます。その代表的な例が、そこまで複雑に考えなくても回答できる「どうやってオフィスまで来ましたか」といった質問です。
回答のアドバイス
上述の通り、アイスブレーク的なニュアンスを含んだ質問のため、奇を衒ったり裏をかいて回答する必要はありません。ごくごく自然なコミュニケーション能力が求められます。とはいえ、一応ドイツの世界にもそれなりのルールがあり、あまりネガティブな言葉を初対面で使用するのはタブーとされています。そのため、「迷いました」「分かりづらかったです」「疲れました」という回答は避けるべきでしょう。
自己紹介をしてください
質問の意図
履歴書で書かれている内容を改めて自分の言葉で端的にまとめる力が求められます。ドイツの面接官は冗長な内容の繰り返しや、業務にとって不要な部分には興味がありません。できるだけ、今回応募先のポジションに関係があると思われる過去の実績、成果、専攻などに焦点を絞って紹介していく必要があります。
回答のアドバイス
名前に加え、「大学の専攻」「過去の職種」「過去の実績と業務」は最低限触れておきたいところです。過去の職種に関しても、応募先のポジションと関係のない分野に関しては触れる必要はないでしょう。新卒採用とは違うので、学生時代に力を入れたこと、アルバイト、など業務に関係ない部分の紹介も不要です。その他深掘りしたいと面接官が思った箇所に関しては、あちらから質問があるので待ちましょう。
過去の職場でどのようなポジションでどのような成果を成し遂げましたか?
質問の意図
採用面接で人事部が重視する点は大きく2点、会社で活躍できるかどうか、そして企業文化に合う人材であるかどうかです。過去の実績や職種を聞く質問は、典型的な「将来の活躍を図る」質問です。過去に似たポジションで成功体験があれば、当然同じく活躍できると期待値は高まりますし、ここの部分が曖昧であったり、募集しているポジションの職種と異なったりすると、人事部にとって逆に黄色信号が灯るわけです。
回答のアドバイス
面接官の興味があるのは、新しい環境で再現可能な実績かどうかです。たまたま前任者から引き継いだ案件を持っていたら成功した、マニュアルに従っていたら実績に繋がった、というような、他人の褌でとった実績にはあまり興味をひかれません。方法は異なれ「自分でこういう理論に基づいて考え」「このように自発的に行動したら」「このような成功に繋がった」という起承転結形式で説明できると伝わりやすいでしょう。
なぜ過去の職場を退職(したいと思いますか)しましたか?
質問の意図
質問の真意としては、応募者がどのような部分に不満を感じて会社を去ったのかを知るところにあります(あるいは会社から解雇されたか)。職場の人間関係や残業時間などが問題であれば、それが繰り返される可能性が新しい職場でもあり得るわけで、やはり人事部からしてみると採用に黄色信号が灯ります。会社都合で退職させられた場合でも、やはりそれなりの「適切」な答えが求められます。要するに、素行不良やパフォーマンス不足であれば、やはり同じことが繰り返される危険があり、採用は危険でしょう。
回答のアドバイス
この質問には個人の性質や実際の転職理由などが関係するので、一つの最適解があるわけではありません。よく好まれるとされる回答は家族やパートナーといった、面接官が深く突っ込みづらい私的な事情で、パートナーの引っ越しとともに前の会社を辞めざるを得なくなった、などは無難な回答のお手本として知られます。
また、ドイツ人の転職理由上位にランクインされる「キャリアパスの不一致」も比較的無難な回答の類でしょう。前の会社は良い会社であったが、自分の思い描くキャリアパスと異なった、市場規模が限られ自分のスキルが活かしづらい環境だった、などキャリアに絡めた回答もまた好まれます。もっとも、その場合は新しいポジションと自身のキャリアがいかに一致しているのか、を面接官に理論的に説明する必要があります。
どのような業務内容を頭に描いていますか?
質問の意図
企業の下調べをおこなってきたか、そして応募者の希望と業務内容に不一致が無いか、を確認する意図のある質問です。過去の職種と今回の応募内容が近ければ業務内容のイメージが付きやすく、乖離が避けられますが、全く異なる業務内容ですとあらかじめ業界研究が欠かせません。
回答のアドバイス
事前準備がモノを言う質問になります。どこまで業務内容を理解し、そのポジションに自身が適しているかを理論的に展開する必要があります。この期待と業務内容の不一致を防ぐため、ドイツの面接では過去に似たような業務を経験した人が好まれる傾向があり、経験者有利の構図が成り立っていますが、逆に未経験でも新しい業務内容をしっかりと把握している人材であれば、採用のチャンスは大きいでしょう。
当社でどのようなキャリアを描きたいと思いますか?
質問の意図
いくら優秀な人材であっても、会社のキャリアパスに満足せず、短期間で辞められてしまっては会社にとって損失です。一人の人材を採用し、育成するにはそれなりの労力が要されるわけです。そのため、事前にお互いのキャリアパスの理解を近づけておく必要があるでしょう。
回答のアドバイス
ある程度応募先の企業の実情を鑑みて、現実的なキャリアパスを自分の求めるキャリアパスとして説明できれば良いでしょう。例えば、業界未経験であれば、最初の5年程度はジュニア枠として、見習い期間を設けているのがドイツの会社です。逆に、すでに業界経験が有れば、会社も当然それなりの即戦力としての活躍を見込んでいる訳なので、それなりに「早めに結果(結果は具体的な数値であると良い)をだし、チームを引っ張っていく姿」を相手に説得できると良いでしょう。面接官の頭の中で、あなたがオフィスで生き生きと働くイメージを描かせられればこちらのものです!
面接時の服装
応募先の会社によって、どのような服装が好まれるか、多少の違いはありますが、異なります。ガチガチのスーツ出勤を求めている会社にカジュアルなジャケットを着て面接に行くと赴くと不自然ですし、逆にデザイナーの集う会社にこてこてのリクルートスーツで出向いてもやはり奇妙に映るでしょう。
面接時の服装とは、「この会社に入ったら、この服装で仕事しますよ」という表明とも言われています。服装を見て面接官がその人がオフィスで働くイメージがつかめればよく、その服装は他の同僚から極端に浮いているとおかしいわけです。結局はケースバイケースで判断する方法が吉とされるでしょう。
もっとも、在独の日系企業の場合、日本の就職文化を踏襲することが多いため、一般的には「男性はビジネススーツ&革靴&ネクタイ」「女性はビジネススーツ&パンツORスカート」といった服装です。ごくごく普通の服装であれば大外れすることがありません。
その他一言ヒント
残念ながら、全ての応募先に共通する模範的な回答というものは存在しません。企業ごと、ポジションごと、面接官ごとに「好まれる」回答は異なるわけで、その良しあしの判断経験はどれほど多くの会社を受けたかによって積まれていきます。要するに、1社受けて不合格だとしても、あなたの受け答えが悪かったわけではなく、単に面接官や応募先の社風にあわなかっただけかも知れないので、あまり気を落とす心配はありません。
日本という故郷を離れ、ドイツで就職面接を受ける、これだけであなたが勇気ある一歩を踏み出したことは示しているでしょう。不合格だったからといって、次の面接で自分をとりつくろったり、嘘を言う必要はありません。いくつかの面接経験を積んで、自分なりの受け答えのリズムや答えを導き出し、それを評価してくれる会社に就職することが、幸せな海外転職活動のヒントです!