ドイツ就職虎の巻【壱】 ドイツ日系企業応募準備のための予備知識講座 

すでに多くの就職・転職ノウハウに関する情報が公開されている日本での就職・転職活動と異なり、ドイツの日系企業への就職活動情報はかなりそのリソースが限定されています。実際にドイツで就職、転職をしたいと思ったところで、「次にどうしたらよいか分からない」で困ってしまっている方も少なくないのではないでしょうか。

全体のスケジュールといった点では、下記の表のように日本における一般的な転職活動と同じで、求人情報を見た上で応募をおこない、面接を通じて内定を得るというプロセスになります。もっとも、その途中途中で「海外就職」ならではの落とし穴があるので、細かい点に留意しながら解説を行っていきたいと思います。

ドイツ就職虎の巻、第1巻では「ドイツ日系企業就職に関する予備知識」のフェーズについて一緒に確認していきましょう。

ドイツ日系企業就職に関する情報収集

日本での就職活動であれば、四季報や就職掲示板など、豊富な情報が就職活動を手助けしてくれることでしょう。どうやって応募するのか、どのような応募要件を満たす必要があるのか、どのような準備が必要なのか、等々。一方で、ドイツに展開している日系企業への応募となると、企業・求人情報は限られ、ほとんど出回っていないように見えるはずです。

ドイツ日系企業で日本人が就職するための応募要件を知る

ドイツの日系企業への就職を目指す際に、応募の前に知っておかなくてはいけない情報があります。すなわち「どのようなスキルや要件を満たしていれば応募できるのだろうか」という点です。そもそも応募の要件を満たしていないと、何十社と応募しても、梨のつぶてに終わってしまい、ただただ時間だけが過ぎてしまいますので、まずはこの点をクリアにしておきたいですね。

企業形態やポジションによりけりですが、ドイツの日系企業就職を目指す日本人が考慮しなくてはいけないドイツ日系企業就職の応募要件としては、「語学力」「職歴」「学歴」「就労ビザ」などが挙げられます。以下、一つずつ確認をしていきましょう。

満たしておくべき語学のレベル

EUの発展とともにドイツのビジネス構造も大きく変化を迎えました。すでにドイツ国内企業の半数以上が何らかの形で海外との貿易や業務をおこなっていると言われており、ドイツの採用活動の中で海外折衝をおこなうための「英語力」は無視できない必須スキルと化しています。

ドイツの日系企業に目を向けると、こうした「英語重視」の姿勢は同じく重要と言えるでしょう。日系企業の場合、ドイツの子会社を欧州市場の橋頭保と用いるケースが多く、ドイツ内の営業だけでなく、欧州全土への営業拠点、マーケティング拠点として用いることがあり、また世界各国から高度技能人材を収集するために、英語での採用活動を多くおこなっています。

 

ドイツ日系企業における一般的な要件

英語

ビジネスレベル

ドイツ語

話せるとアドバンテージ

日本語

ビジネスレベル

ここで、「ビジネスレベルの語学力」が何を指し示すのか少し踏み込んで理解しましょう。ビジネスの世界で、厳密に何かの証明書をもって足切りがなされる、ということは少なく、一般的にはCEFR基準のB2、C1以上あたりの語学力をもってビジネスレベルと見なされることが多いでしょう。場合によっては、証明書がなくても過去の経験などでもって十分と見なされます(例えば、過去に海外企業と折衝した経験、過去に海外で働いた経験など)。そのため、下記の表はあくまで参考程度にお使いください。

ドイツ語のレベル早見表

(画像引用元記事: ドイツ就職に必要なドイツ語レベルとCEFRガイドライン

日本で指標として用いられるTOEICのように、リスニング&リーディングのみの試験であると正当な証明書として見なされにくい場合もあります。どうしても、ヨーロッパ一般の考え方ですが、スピーキング、リーディング、リスニング、ライティング、の4技能の習熟度を持って正当な「ビジネスレベルの語学力」と認められるわけです。

英語習熟度レベル別のポジションの可否

 

日系企業

ドイツ企業

C1

B2

B1

A2

A1

(◎ポジションが多い、〇ポジションがある、✖ポジションが少ない)

ドイツ語習熟度レベル別のポジションの可否

 

日系企業

ドイツ企業

C1

B2

B1

A2

A1

(◎ポジションが多い、〇ポジションがある、✖ポジションが少ない)

新卒でも採用されることはある?どれくらいの職歴が必要?

ドイツに進出している日系企業は、多くはグローバル市場の最前線で活躍するポジションを求めており、おのずと即戦力、すなわち既卒採用を求めやすい傾向にあります(最も、この傾向はドイツ企業でも同様で、学生がまっさらな新卒としてドイツで就職をおこなうことは一般的ではありません)。ドイツで働く日本人のうち、仕事を経験してから海外での就職に踏み切った人間は64%と、全体の約3分の2を占める形です。

新卒として経験ゼロでドイツに来て在独日系企業で働く道はゼロではありませんが、就職の間口が狭く、不安定な道になりやすい事から、基本的には最低でも2~3年程度は就業経験を積んでおくことが推奨されます。

(埼玉大学「変容する海外で働く日本人―現地採用者に着目して―」を元に著者作成)

また、ドイツでの就職に成功した応募者の就業年数に注目すると、ここは数値が分かれ、1年程度の短い職歴で渡独し日系企業就職に成功した人もいれば、6年以上日本で仕事の経験を積んでから渡独したという応募者もいるという結果になっています。

当社調べ

経理や人事、エンジニアなど、特殊な知識を要する分野においては応募職種分野における職歴が求められることが多いと言えるでしょう。対して、営業アシスタント職などでは、「日本の会社で社会人として働いたことがある」という事実でもって応募要件としては十分であると見なすことが少なくありません。

学歴は何が必要?

職歴同様、学歴に関しても職種によって要件が異なると言えます。例えば、エンジニア系の求人であれば、工学系の学位を応募要件として求める企業がほとんどと言えますが、学位が無くてもWEBデベロッパーのように実務スキルをもって可とするような職種もあれば、そもそも営業や営業アシスタントのように特定の学部の専攻に囚われない、という職種も日系企業には多く存在しています。

応募要件として明確に「四大卒」をうたっている企業は多くありませんが、内定者の学歴を紐解くと、全体の95%が大学・短大・大学院の卒業生です。

(当社調べ)

ただ、ドイツ企業のように「大学の成績」や「大学の研究結果」などまで学歴詳細を求められることは少なく、あくまで「大学卒か否か」、理系であれば「なんの専攻か」あたりが重要視されるという認識で良いでしょう。

在独日系企業応募要件早見表

 

営業

営業アシスタント

経理

総務

人事

エンジニア

IT

英語

B2~

B2~

B2~

B2~

B2~

B2~

B2~

ドイツ語

A1~

A1~

B2~

B2~

B2~

A1~

A1~

職歴

比較的緩い

比較的緩い

同一業界での職歴要

同一業界での職歴要

同一業界での職歴要

同一業界での職歴要

同一業界での職歴要

学歴

比較的緩い

比較的緩い

比較的緩い

比較的緩い

比較的緩い

同一専攻

比較的緩い

 

就労ビザって何?必要?

ドイツで日本人が就労する場合、EU国籍の配偶者がいたり、EU内で出生したりという特殊なケースを除けば、現行の滞在許可証とは別に「就労許可」が必要で、滞在許可と合わせて初めて就労ビザとなります。ドイツで5年以上の就労経験があったり(※Niederlassungserlaubnis(永住ビザ)の細かい認定条件は条件によって異なりますのでご注意ください)、一定の条件を満たすと永住ビザと呼ばれるビザが発行され、これをもって縛りなくドイツで就職活動をおこなうことができるようになりますが、そうでない場合転職のたびに雇用者に紐づいた就労ビザの発行が必要となります。または24ヶ月以上納税した場合、期限付きではあるものの、雇用主の縛りがないビザも存在します。

在独日系企業での就職を志すにあたり、「就労ビザが無い」状態での応募を可とするのか、「縛りのない就労ビザを保持している者のみ」応募可能とするかは企業によって分かれるところですが、基本的にはドイツ企業と異なり、日本人の採用を前提にするところが多いため、前者の「就労ビザが無くても応募可能」としている割合が高いと言えるでしょう。

在独日系企業の現地採用職応募について理解しよう

在独日系企業への応募要件を確認したところで、次のステップである「現地採用」の仕組みについての解説に移りましょう。現地採用とは、文字通り多国籍企業が進出している国で人材採用する形態のことで、ドイツの日系企業に日本人として応募する場合「現地採用人材」と見なされます。本社で採用された日本人を短期的に海外子会社に出向させる「駐在員」とは異なる採用方式となります。

  • PCN(Parent country national)例:ドイツで日系企業が日本人を雇う場合
  • HCN(Host country national)例:ドイツで日系企業がドイツ人を雇う場合
  • TCN(Third country national)例:ドイツで日系企業がイタリア人を雇う場合

多国籍企業経営の観点から考えると、異国で自国民を採用するメリットとしては、以下の通りのものがあり、昨今国境を越えた採用活動が活発化する中、駐在員制度に代わる新たなグローバル人事の一手法として活発に行われています。

企業から見た現地採用制度のメリット

  • 駐在員と比べて大幅にコストを削減できる
  • 現地に長期滞在してくれる人材が採用できる
  • 現地文化に詳しい人材が採用できる

現地採用と駐在員の違い

現地採用と駐在員との大きな違いの一つは、本社採用なのか、現地の子会社による採用なのか、という点に。本社採用の場合、駐在員という形で各国に送られますが、その際には基本給とは別に「駐在手当」がつくことになります。駐在手当とは、本来の日本での生活を会社の業務のために放棄して海外に行くことになるので、同じ水準の生活が享受できるように、という趣旨の元に生まれた制度で、そのため住居や帰国補助などが挙げられます。

 

現地採用

駐在員

給与

★★★

★★★

駐在手当

 

★★★

雇用主

ドイツの日系子会社

日本の本社

赴任地

採用場所に紐づく

本社決定に従う

赴任のタイミング

自身で決定できる

本社決定に従う(30歳以上であることが多い)

赴任地での任期

基本的に期限なし

3~5年程度

仕事内容

※企業や職種による

現地企業やドイツ人との折衝やが多い

本社との折衝やマネジメントが多い

 

対して、現地採用の場合、あくまで会社都合ではなく自分の意思でドイツに来て、そこで日系企業のドイツ子会社に採用されることになるので、駐在手当や住宅補助が発生しません。その分、駐在員と違い就活に当たっての比較的自由な決定権という大きな強みを持ちます。

ドイツ現地採用を選ぶメリット

  • 数ある駐在候補の中から、ドイツという国をピンポイントで選択できる
  • 若いころからでもドイツに移住することができる
  • 任期に囚われずドイツに長期的に留まることができる
  • ビザや年金など、ドイツでの福利厚生の恩恵を受けやすい

会社内での地位や職歴に応じて海外駐在のタイミングや期間が指定されてしまう駐在員と違い、現地採用の最大のメリットは「自分のタイミングで自分の行きたい国」に動けることです。特定の国に興味があったり、特定の国にパートナーがいたり、駐在員としては選ばれにくい20代から既にドイツでキャリアを積みたい、などの事情がああれば、企業内の駐在員として選ばれることに運任せにするよりも、現地採用という道を自ら切り開く選択肢が適切と言えるかもしれません。

現地採用の仕事内容・キャリアってどんなもの?

在独日系企業として現地採用として働くと、基本的には現地ドイツの人材として扱われるため、キャリアパスや仕事内容も現地の人事テーブルに紐づくことが多いと言えるでしょう。ドイツの文化や言語に詳しいことを武器とするのであれば、ドイツ企業との折衝やドイツ人とのまとめ役が職務として多く期待されますし、英語やその他経理、人事のスキルを活かしたいと思えば、企業によっては専用のポジションが当てはめられます。

ひと昔前まで「現地採用のキャリア育成には壁がある」と言われていましたが、国境を越えた人材の採用、グローバル人材の育成が多国籍企業の関心事となって久しく、スキルや実績次第では本社への出向や、本社の支社長、大手企業の本社採用といったダイナミックな道も用意されています。

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