人材採用成功において重要なこと「スピード感」

グローバル環境下において国境を越えた人材採用が盛んになるにつれ、企業間の採用競争も激しさを増すものとなってきました。自社の採用したい人材、良いなと思う人材というものは他社も優秀であると考えることが多く、往々にして「奪い合い」になることが多いと言えるでしょう。

こうした企業間の人材争奪の場において、賃金や条件面での交渉以外に重要な点があります。それは、「スピード感」そして「決断力」です。

ドイツにおける人材獲得競争

複雑化する国際経済の中、グローバルビジネス成功のカギとなる高技能人材の獲得競争は、マッキンゼー社によって「戦争(War for Talent)」であると形容されました。ある企業は自社の持ち味を生かし新人を育成し、ある企業は高給によるヘッドハンティングによって外部から獲得するなど、様々な独自の戦略を講じて多国籍企業はこの競争に打ち勝つ努力を為しています。

在独日系企業が必要とするマルチリンガル、多文化での職場環境で活躍できる人材、貿易や海外経理が可能な人材なども、ドイツ市場において概して人材獲得競争の的になることが多いという事実を、忘れてはいけません。競合の在独日系企業のみならず、現地ドイツ企業、中韓企業などからも同時にオファーの出ることが少なくなく、こうしたライバル企業に対抗すべく、「自社に入社」する筋道を立てる必要があるのです。

2021年においてすでに、ドイツ企業の約半数にあたる51%が、必要とする人材の確保に困難を覚えていることが示されています。特に、日系企業であることや、日本において有名企業であることの優位性が活かしづらいドイツの就職市場において、他社に奪われることなく優秀な人材を獲得するためには、日本とは異なるドイツ市場に対応できる力を身に着ける必要があります。それはすなわち、他社を圧倒する「スピード感」です。



(DIHKを元に著者作成)

採用活動の成否を決める:スピードと決断力

2022年に開催されたサッカーワールドカップにおいて、日本代表が大金星を挙げたドイツ戦では、このスピード感と決断力の重要性が随所に垣間見られる試合でした。

前半は守備的な戦術で失点を最小限に防ぎ、相手が疲れてくる後半途中から一気に攻撃的な戦術にシフトし、後半途中から投入された浅野選手が75分、堂安選手が83分にそれぞれゴールを決め、たったの8分間でワールドカップ4度優勝のドイツに逆転し、そのまま勝利しました。

状況に応じて即座に状況を判断、分析し、実行した森保監督の決断力が勝利を手繰り寄せたわけですが、この指揮官の決断力は、勝敗を分ける重要なファクターであることは、古今東西普遍的なものです。

冒頭でも示した通り、人材をめぐる多国籍企業の争いが人材をめぐる「戦争」であるとするならば、成否を分けるのは同様に果敢な決断力とそれによって実現される「スピード感のある採用」ということになるでしょう。



それでは一体、具体的にどれくらいのスピード感がドイツにおける採用活動において求められるのでしょうか?採用されやすい優秀な候補者、または気の短い候補者であれば、面接後即座の反応、可能であれば1週間以内に企業側からの何らかのレスポンスを求める傾向にあります。を急いでいない候補者においても、応募や面接後に待てる期間はやはり2週間程度が限度と言えるでしょう。


Softgardenを参考に著者作成)
統計的な話をすると、ドイツにおける採用活動で候補者が、ポジション自体に興味があるにも関わらず企業に断りの連絡をいれる大きな理由の一つに「企業からの連絡の遅さ」が挙げられます。これは、採用担当者の対応や条件面での折り合いの悪さを超える辞退理由となっており、ドイツの就職市場におけるスピード感の重要性が伺えるデータの一つです。

Softgardenを元に著者作成)
ポジションや要件によりけりですが、期待する人材の採用に成功している企業の採用までにかかる標準期間を見てみると、以下の通りとなります。

※当社調べ
  • 書類選考の結果連絡 標準1週間以内
  • 面接後の採用通知(または次面接への招待)→標準1日から1週間
  • 応募から内定までを通じての期間→標準2週間


上記の標準所要日数を超過すると応募者の気が変わることや、他企業の内定と比較されてしまい、採用活動に赤信号が灯りはじめます。

求職者全員を面接し、その中で「一番優秀な人材」を採用しようとすると、どうしても上記の標準日数や、求職者が待てる「2週間」の壁を越えてしまうことが多いため、特に条件交渉のハードルの低い「営業アシスタント」案件などでは、あらかじめ採用要件を広げ、そのボーダーラインをクリアした人材を即座に採用する決断が結果として良い人材の確保につながります。

性別

ポジション

理由(一部コメント抜粋)

女性(日)

営業アシスタント

日系企業3社の面接を進めており、給与や待遇にほとんど変化は見られなかったため、一番早くに内定を決めて頂いた会社に決定しました。

男性(独)

営業

日系企業とドイツ企業を同時に面接進めており、日系企業のほうは面接が3回と多く、面接のたびに次のプロセスまでの待機期間が長かったが、ドイツ企業は一次面接の翌日に連絡が来て、内定を貰った。

女性(日)

営業アシスタント

ビザの滞在期限も迫っており、一刻も早く内定を決めてくれた企業に入社を決めた。辞退した別の企業はとにかく決定が遅く、私以外の他の人間を優先して採用したいんだろうな、という気持ちが透けて見えた。

女性(独)

営業アシスタント

一番条件が良く第一志望だった企業は、面接後2週間待っても次のプロセスが不明瞭だったので、その時点で内定を貰った第二志望の企業に入社することを決めました。

(採用日数がネックとなり辞退した応募者の声)

とは言っても、常にスピード感ばかりを優先すればよいという訳ではありません。ポジションによってはスピード感よりも綿密な条件交渉が優先されることもあるため、注意が必要です。

スピード感の優先される人材
条件交渉のハードルの低いポジション(営業アシスタント等)
何らかの理由によって現職の退職が決まっている
第一印象が良い(他の企業からもオファーを受けていることが多い)
就労ビザの期限や帰国など、時間的制約がある

条件交渉が優先される人材
条件交渉のハードルの高い専門職や管理職
現職を退職する明確な理由がない、キャリアアップを目的とした転職活動をおこなっている

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